キリヤたんの映像美

宇多田の今回のシングルは両A面だが両曲ともPVはアニメ。アニメが悪いとは言わないがキリヤたんの映像がもう観られないのは残念である。
宇多田のPVで映像作家として名を上げ、「キャシャーン」で念願の映画監督へのキャリアアップを実現するキリヤたん。知名度は高いし予算はあるし好きなことをやらせてもらえる、彼にとって宇多田はいいお客さんだったと思うが、そんな宇多田と別れたのは、よほど宇多田の性格が悪かったのか、人に言えない変態嗜好を持っていたのか、はたまた「髪結いの亭主」になることを恐れたのか。

いずれにせよ宇多田ヒカルと組んだ作品ではキリヤたんは非常によい仕事をしている。

  1. ニコニコ動画(RC)‐PV 宇多田ヒカル Traveling
  2. ニコニコ動画(RC)‐PV 宇多田ヒカル SAKURA ドロップス
  3. ニコニコ動画(RC)‐PV 宇多田ヒカル FINAL DISTANCE
  4. ニコニコ動画(RC)‐宇多田ヒカル Be My Last

1.「Traveling」はファンタジー世界の列車(ウサギ顔)が舞台。植物をモチーフにした、奇妙だが楽しげな旅客たちの造形が独創的だ。

2.「SAKURAドロップス」もファンタジー世界だが、「人間から自然を取り戻した動物たち」がテーマらしく登場人物は宇多田以外ほとんどいない*1。代わりに、動物と植物の融合した姿*2が描かれる*3
いずれも強烈な極彩色の画面で、とりわけ「赤」の使い方が鮮烈。平成の伊藤若冲とも呼びたい*4

3.「FINAL DISTANCE」では、明度を落とした映像でゴシックな世界観に。白・黒それぞれの衣装を纏う2人の宇多田のコントラストを見せつけるが、背景はさりげなく極彩色。奇形(多頭児)のコーラス隊など世間の好まないネタ*5に挑戦してみたり、仏像や修行僧といったアジア風のモチーフや英国旗をジーンズに縫いつけたパンク・キッズなどの、世界観に全く無関係な要素が紛れ込んだりと幻惑的でハイブロウ。

4.「Be My Last」では一転、幻想的なイメージはなりを潜めた。チェコの街中における、一見普通のロケ。しかし、宇多田以外のキャストが出てきて、ショートムービーに一変。宇多田は登場人物の1人でありながら他の誰にも存在を気付かれないという描写であり、やはり、何かひとクセある世界観を持っているようだ(幽霊?)。
なお、宇多田が車に撥ねられ横回転で飛んでいく衝撃的なシーンがあるのだが、闘病生活を経て肥大化した宇多田の体形はそれ以上に衝撃的であった*6

*1:ドラムを叩いているバックバンドもちらりと登場するが、顔まで覆う全身タイツを着ているので登場人物とはいえないかもしれない。

*2:花と合体した小鳥が可愛い。

*3:風車のように回転する花弁のアイデアは、アニメ「ひぐらしのなく頃に」のOPでも用いられている。

*4:SAKURAドロップス」のPVの最後のシーンは、CGとして図案化された「鳥獣花木図屏風」である。「SAKURAドロップス」は若冲へのオマージュなのだ。

*5:口から火を吹く芸人が出てくるので、彼らの居場所は「見世物小屋」である。

*6:卵巣腫瘍を切除したのだった。卵巣は2個あるから1個切っても子供はできるのだろうか?