叙述トリック:何で僕ら店からつまみ出されたんですか?

 僕は、しばし呆然としていた。
隣にいる先輩なら何か知っているかもしれない。

「先輩……何で僕ら店からつまみ出されたんですか?」
「さぁな」
先輩は平然として、煙草をふかしている。
「だって、店に入って早々にですよ?何かの間違いじゃないですか!」
「店は店なりに事情があるんだろ」
先輩は口元を斜めにして、店の窓のほうを見る。
どうやら、先輩は知っているようだ。
「僕は納得出来ません!店長に問い質してきます!」
動こうとした僕の腕を取って、先輩にとめられた。
「待て待て。俺に恥をかかせるなよ」
「僕は真実を知りたいんです!」
一時の沈黙――。
先輩が口をゆっくりと開いた。
「わかった、教えてやる。これは、お通しだ」

店から、つまみ“を”出されたんですね。これは巧い。

ちなみに「お通し」だろうと、断れば勘定に入りません(民法の契約)。