倉木麻衣:悲しきアンドロイド

本家・宇多田ヒカルは、父親の操り人形から自立したアーティストへ進化を遂げ、倉木麻衣は、初期型・宇多田クローンのまま取り残される。これも悲しきアンドロイドのさだめか。

最近流れている倉木麻衣の新曲? を耳にして、そう思ったのでした。

宇多田ヒカルの発声法の特徴は、もちろんあのヴィブラート。ヴィブラートはピッチ(音程)を揺らす発声法ですが、ピッチとともに強さも上下するのが宇多田流。

宇多田の声質を完全コピーし、和風美少女のルックスつきで登場したのが倉木麻衣でした。

「全米で先行デビュー」とあざとく経歴を粉飾しつつも、音楽自体は90年代の歌謡ポップに逆戻り。

「売れ筋で、世間一般のレベルから見てそれほどダサくはないが、新しいとは決していえない」という、ビーイング系事務所の常套手段でありました(分からない人はB'zやZARDを例にとって見ましょう)。

アルバム名も1st『Delicious Way』(おいしい手口)、2nd『Perfect Crime』(完全犯罪)と、挑戦的な態度を見せます。

しかし、宇多田はパクリ、劣化コピーの追撃をものともせず、毅然と先に進むのでした。

サウンドは、父親お仕着せのR&B/ヒップホップから、ロックやアンビエントなどのさまざまな可能性を模索し、荒削りながら自力での打ち込み等、前向きな思いを感じさせるサウンドに変化を遂げてきます。きっぱりしたドミナント・モーション*1は、大人の女らしい、クラシカルで機微に富んだコードへと変化します。

格の違いをまざまざ見せ付けられるとはこのことでしょうか。

今や倉木麻衣の話題はあの

「娘のそっくりさんAVに出演する」

変態父親の話くらいになってしまうというありさまなのでした。

http://www.tanteifile.com/diary/2004/10/24_01/index.html

しかし悲しむということを知らないコピーアンドロイド・倉木麻衣は、今日も律儀に「あの日覚えた宇多田ヒカルのうたい方」を真似します。声を尽くしても、彼女にそれしか表現する術はないのでした。

*1:強進行。V7 → Iで三全音の解決する終止形。起立 → 礼 → 着席の礼 → 着席の部分のコード進行。