ばるぼら

手塚治虫「ばるぼら」を読みました。
アドルフに告ぐ」や「きりひと賛歌」等、手塚のリアル&シリアス路線は何作か読んでいたのですが、また一風違ったファンタジー風+サイコ風であり、私小説風でもありました。

ばるぼら (KADOKAWA絶品コミック)

ばるぼら (KADOKAWA絶品コミック)

  • 表のテーマは芸術と狂気。
  • 裏のテーマは手塚先生のカミングアウト。

物語では、奇妙な放浪少女バルボラと、作家・美倉洋介の、出会いから死*1までの顛末が描かれる。
彼女と出会って後、流行作家として文壇に踊り出た美倉は、ある事件で彼女を失い、以降、転落への道を歩む。
彼は思い知らされる。彼女はミューズ(芸術の女神)であり、魔女であった。彼女に愛された芸術家たちは時代の寵児となるが、彼女が去った後ことごとく創造力を失った。
美倉も狂ったように彼女に翻弄され、彼女を求める。

ややこしいことに、語り手である美倉は、物語冒頭から、変態性欲と幻覚で狂気の片鱗を見せている。
最初から狂っている可能性もあるので、結局この物語が美倉の身の上にとって単なる妄想か否かは、判別つかない。

ところどころキュビズム絵画のように歪み、狂った描線が、物語あるいは社会全体に横たわる狂気を物語っている。

そして、別の側面から見れば、手塚先生自身が主人公の姿を借りて「エキセントリックで手のかかる、年の離れたカワイイ娘に翻弄されるなら、おかしくなっちゃってもイイかな?」というロリータ願望を、ここで顕にしているのであった。

*1:物理的には死なないが、物語終盤で、美倉洋介の人格は死を迎える。