美空ひばり

美空ひばり特集番組を観ました。
彼女はやはり稀代の歌手、昭和の歌姫でした。

「日本の心」などという偶像を作り出すマスコミや世の中が、美空ひばりに対して演歌・歌謡曲ひとすじのイメージを作り上げていますが、実際コンサートの映像を見れば、後年UAがカヴァーすることになる「リンゴ追分」のビッグ・バンド・アレンジでノリノリにスウィングしたり、「Tennessee Waltz」でジャジーに歌い上げる多才ぶりを見せ付けます。

演歌歌手は、リズム感、音感、ノドが演歌に最適化されてしまい、演歌しか歌えないものです。
しかし、美空ひばりは演歌のみならずジャズ、ポップス、民謡など、楽曲にあわせたあらゆる発声を使いこなす力量をもった、オールマイティな実力派ヴォーカリスト*1なのでした。

その実力を、彼女は自分のフィールドである演歌・歌謡曲でも遺憾なく発揮します。
「みだれ髪」で見せた、音域の広さと表現力の深さ。
「悲しい酒」の語り部分で、感情移入のあまり涙をこぼし、それでいて歌唱に一瞬の狂いも顕さない、徹底したプロフェッショナリズム。
そして不死鳥コンサートで病と闘いながら唄う姿。
明らかに張りと伸びを失ったその苦しく、痛々しい声と、それをおしても笑顔ですべてを唄い切る精神力。
ガラにもなく涙を流してしまいました。

彼女の公式サイトではナット・コール・キング「スターダスト」のカヴァーが聴けます。
http://www.misorahibari.com/intro.html

*1:美空ひばりをつかまえて、今更、「実力派」もおこがましいですが、世の中で言われている「実力派」に対するアンチテーゼのつもりで書きました。