初音ミク=出会い系

あらためて「初音ミク」とは何か定義づけてみるとすれば、DTMツールやキャラというその元々の性質を超越し、作り手と受け手が日々新たな出会いを求めて集う、ある種の「出会い系」プラットフォームと呼べるのではないか。

多様性の理由

先日「ボーマス」の会場を眺めていて思った。
バンドマンから、同人絵描きまで。オリジナル曲CDから、2次創作エロマンガまで。これほど多種多様な人種、作品が寄り集まる創作ジャンルイベントがあっただろうか。
この多様性がVOCALOIDの面白さの1つだと思っている。
では、なぜ、VOCALOID創作界隈には多様性が存在するのか。

http://d.hatena.ne.jp/beentocanaan/20090311#p1

キャラクターとしての初音ミクは、DTMソフトとしての「初音ミク」から次第に独立し、図像という面でも、キャラクター設定という面でも、現在ではほぼ完全に自立したキャラクターに成長したと思います。

その結果、「初音ミク」というDTMソフトウェアの本質的機能である合成音声、あるいは歌は、キャラクターのデータベースを構成する重要ではあるが、本質とは言えない一要素になったと言えるでしょう。そのため、初音ミクのキャラクターのアイデンティティは、声あるいは歌姫という設定というよりも、緑の髪とツインテールという記号的特徴やボカロファミリーの一員という設定によって構成されていると考えられます。

引用は、カナンを夢見ながらより、初音ミクという現象の音楽的側面とキャラクター的側面の両方を俯瞰した大作記事「初音ミクの分裂」。

ミクの「音声、あるいは歌」と「キャラクター」は、本記事で「分裂」と表される通り(一時シンクロしていたが)元々切り離して考えることのできるものだ。
だから、音楽作品でも、キャラありきの作品(自己言及曲)から、ミクのパブリックイメージを参照する作品、ミクのイラストだけ使用する作品、ミクを純粋にDTMソフトとしてだけ使う作品まで、多岐に渡る。
また、音楽に限らず、キャラクターイメージを元にした2次創作、派生作品、映像、カバー、MAD、などなど……表現形態はさまざまであり、それもこれも、初音ミクである。
一概に「初音ミク」を中心としたムーブメントと言っても、上記の通り初音ミクの実体、受容のされ方や創作活動は多種多様で、初音ミクに関わる作品の作り手、受け手の属性も多種多様である。

関係なきものの唯一の接点=出会い系

唯一の共通事項は、全員がそれぞれ初音ミクに価値を見出している点だ。

その価値とは何か。

初音ミクそのもの、音声や図像の素材としてだけでなく、初音ミクから多種多様に広がった世界そのものが付加価値である。

多種多様な作品があり、多種多様な人がいる、初音ミクから広がる地平は、作り手にとってたくさんの人に作品を送り届けるための、受け手にとってよい作品と出会うための、出会いのインフラなのである。

出会いに影響力があるから人が流入するし、また、人が増えればこそ出会いのための影響力は上昇する。雪だるま式に人が増え、価値が増す。今は爆発的に増えすぎていると思うが、ブームが収束しても初音ミクを活用するクリエイターは一定数いて、出会い系としての初音ミクの価値はなくなることはないだろう。

1日でも長く、1人でも多くの人に、しあわせな出会いを、ミクがもたらしてくれることを願ってやまない。