孫くんボーダフォン買収劇のおさらい

ソフトバンクボーダフォン日本法人を買収した際の買収額は日本企業では過去最高となる総額1兆7500億円だが、この巨額の資金を調達したスキームについて。

 ソフトバンク全額出資で設立する子会社を通じ、1〜2カ月中にボーダフォン発行済み株式の97.7%を取得する。ソフトバンクは2000億円、ヤフーは優先株1200億円を出資。さらに1.1〜1.2兆円を、買収先の資産を担保に資金を借り入れるレバレッジド・バイ・アウト(LBO)によるノンリコースローン(非遡及型融資)で調達する。

レバレッジド・バイ・アウト(LBO

 企業買収手段の1つで、買収対象企業の資産あるいは将来キャッシュフローを担保にした負債(借入金・債券)を買収資金にして行われるもの。

 買収資金の一部または大部分を、自己資金ではなく負債を充当することで、少ない手持ち資金により大規模な買収を行うことができ、かつレバレッジ効果によってキャピタルゲインの大幅な増加を狙うことができる。

レバレッジとは、投資では必須の用語だが、「てこの原理」の「てこ」であり、経済活動において他人資本を使うことで自己資本に対する利益率を高めることを一般的に指す。

ノンリコースローン

ノンリコースローンは通常の融資のように「人」や「会社」の信用に融資するのではなく、不動産事業そのものに融資しているのです。したがってあくまで、担保とする不動産の収益性に着目し、万一、返済不能に陥ったとしても、その不動産を売却する以外は返済義務は生じず、他の資産に責任は一切及びません(遡及しない)。このような事から非遡及型融資(ノンリコースローン)と呼ばれています。

引用文で不動産事業とあるが、この場合、買収対象の事業のことである。

以上の通り、LBOノンリコースローンの組み合わせで、ソフトバンクは比較的少ない自己資金で、なおかつソフトバンク本体に財務リスクを一切負うことなく、短期借入金を調達することができた。

ただ、ノンリコースローンは銀行が債権回収リスクを負うぶん、金利は高くなる。

したがって、孫くんは次に携帯事業証券化で1兆4500億円の調達に乗り出す*1

証券化はストラクチャード・ファイナンスを使った資産流動化の動きであり、レバレッジドリースのような調達スキーム、あるいはJ-REITのように不動産が生み出すキャッシュフローを担保とする商品を可能としてきたが、さらに特定事業そのものの証券化(事業証券化WBS=Whole Business Securitization)も注目を浴びる。

WBSの実例は下記。

2002年5月熱海ビーチライン有料道路事業
(日興シティグループ

2003年1月日東興業のゴルフ場再生事業
(ゴールドマンサックス)

2004年3月箱根ターンパイクの有料道路事業
マッコーリー銀行/日本政策投資銀行

2004年3月福友産業のパチンコホール事業
東京スター銀行

2005年11月ガイアのパチンコホール事業
ドイツ銀行グループ)

2005年11月ダイエーパチンコホール事業
新生銀行

2006年11月ソフトバンクモバイルの携帯電話事業
シティバンク/ドイツ銀行

WBSは安定したキャッシュフローを持ち、中小規模の事業主体が多く存在する業種にふさわしい証券化手法であるとされる。私見ではラブホテルだとかパチンコホールのイメージが強く、キャッシュフローはあるけど銀行が貸したがらない産業向けなのかなあ……と思っていたフシがある。国内では類を見ない1兆円規模のWBSが、ソフトバンクによって行われることのインパクトは大きいだろう。

詳細は以下のプレスリリースに記載されている。


うーむ……就職活動のときマジメにソフトバンク入っておけばよかったな。

*1:資金調達手段としては、可能ならばソフトバンク本体の社債でもいいのだが、格付けが低すぎ……ごにょごにょ。