「サイハテ」〜韜晦としてのVocaloid
遅きに失した感があるがこの動画について触れておこう。
一聴して「ポップでキュート」という印象に留まるであろう「サイハテ」のテーマに、最初から気付いた人はいるだろうか?
それに気付いた、あるいは知っていた人だけ、この先を読むことをお勧めする。
「サイハテ」のテーマ
愛する者との死別を描いた作品だが、詞と画の一部以外からは、直接的にテーマがそれと見えにくくなっている。動画におけるVocaloid初音ミクの表情は喜怒哀楽のいずれともつかない。Vocaloidであるがゆえの、韜晦という一種の表現形態と言ってもよい。
第一印象と、じわじわ明らかになるテーマ性
私の場合、ぼからんでの初見時は、キャッチーなエレポップ調の楽曲に、テンポよく切り替わるアニメと、サビの「たおやかな恋でした」の1フレーズから普通の別れの曲だろうという印象だった。白黒絵はありがちなビアズリーへのオマージュか何かと思ったが、花だけがやけにカラフルで、いわく言い難い違和感を残した。
次に、動画を通して聴くと、
扉が閉まれば このまま離ればなれだ
あなたの煙は 雲となり雨になるよ
ここまで来て、ようやくこれは、火葬場で死者へ捧げる葬送曲だと知ることができる。
そして、動画の中で葬儀のモチーフが紛れ込んでいることに気付く。
- ミクが着ている白黒のスーツは喪服。
- 背景の白黒の帯は鯨幕。
- 花だけカラーなのは「ありふれた人生を 紅く色付ける」死者に手向ける花だからなのだろう。
私が初めて動画を通して視聴したのが、人間の歌い手による、ピアノver.歌ってみた動画なので、元のポップ・アレンジの方だけ聴いていた人とは比べにくいが、少なくともパッと聴いて要旨が分かるような作品ではないということだ。
韜晦
動画を見ていて、最初、ミクが喪服(男物)を着ていることに気付かなかった。ミクは元からネクタイ着用のデザインだからか。いや、ミク曲に人の死を描いた作品はあまりない*1し、それ以上に喪服を着て葬儀に出るというシチュエーション自体が発想外だった。
もちろん軽快なポップスとスピーディーなアニメーションを、人の死のイメージと結び付けるのは容易ではない。
本当のテーマは、ちゃんと聴いた人にしか伝わらない。あえてそれを指向して作られた作品だということ。
それゆえにミクは笑いも泣きもしないで、そしらぬ顔で唄う。
できるだけ早く、インパクト強く、ダイレクトに、メッセージを伝えようとする商業音楽家の方法論とは真向から反する。その良し悪しは問わないが、そういう作品が、ある意味、ニコ動という場で認められ、伸びるというのは、面白いことである。
だから「ピアノver.歌ってみた」を聴いて本作の意図を理解している私は邪道なのかもしれない。サーセンwww